衆議院小選挙における一票の較差についての数学的考察
 (12月21日)

 特段「数学的考察」と言うほど大形な計算をしたわけではありませんが、「一票の較差」がなぜ生ずるかということについて余り適切な理解がなされていないので、こうした題名の下に一稿を起こしたところです。

 都道府県間の「一票の較差」と言うとき、都道府県ごとの議員一人当たりの人口の最大値と最小値を比較して較差の値(倍率)を求めます。この値は、アダムズ方式を採用してできるだけ比例的に総定数を都道府県に配分すると、ほとんど人口が最小の都道府県の人口にのみ依存しているということが分かります。一票の較差を議論している多くの人の中で、このことを正確に把握している人はほとんどいません。

 都道府県の人口は所与の値であり、操作することは不可能であって、その値、しかも最小人口の都道府県の人口にのみ一票の較差(倍率)はほぼ依存しているのです。不思議なことのようですが、以下に解説します。

 もちろん全国比例代表制を採れば一票の較差はなくなるわけですが、何らかの選挙区制を採る限り較差は生じるのであって、一票の較差の問題はそれをどの範囲まで許容し得るかということなのです。今回は、衆議院小選挙区における都道府県較差を検討したものですが、参議院選挙区についても同様のことが言えます。

衆議院小選挙における一票の較差についての数学的考察

 衆議院小選挙区においては、今後「アダムズ方式」によりその総定数が都道府県に割り振られることになっている。その後、都道府県ごとの定数に基づいて、当該都道府県における区割りが決定されるが、都道府県内で幾ら平等に区割りを行っても、都道府県間の一票の較差を下回ることはできないので、都道府県間の一票の較差は、小選挙区間の一票の較差の下限を規定することになる。
 アダムズ方式とは、適当な除数(これをとおく。)を設定することにより総定数を各都道府県ごとにその人口を当該除数で除して得た商の整数部分の値に小数部分を切り上げて1を加えて割り振る方式である。除数には、その割り振りの結果が総定数と一致するよう適当な整数を見いだすのである。ちなみに、証明は割愛するが、除数は、議員一人当たりの人口が最大の都道府県における当該人口に近似した整数の集合となる。
 都道府県間の一票の較差(以下単に「一票の較差」という。)は、各都道府県の人口を当該都道府県の定数で除して得た値のうち最大のものを最小のもので除して得た値である。ちなみに、平成27年国勢調査の人口を基にアダムズ方式を適用すると(以下同じ。)、議員一人当たりの人口は、千葉県が最大で471,730人、鳥取県が最小で285,029人となっている。
 今、都道府県の人口をと、それに割り振られる定数をとおき、議員一人当たりの人口が最大の都道府県をとおき、最小の都道府県をとおくと、一票の較差(これをとおく。)は、
 
とする恒等式で表すことができ、人口倍率に定数倍率の逆数を乗じて得たものである。
 ここで「切上げ率」を定義する。「切上げ率」(これをとおく。)とは、都道府県に割り振られた定数と当該都道府県の人口を除数で除して得た値の差を定数で除して得た値であり、次の式で与えられる。これは、当該都道府県が小数を用いた比例配分に比べてどれだけ得をしているかを表す指標と言うことができる。

これを議員一人当たりの人口で解くと、
    
よって、

が得られる。
 今、議員一人当たりの人口の最大の都道府県の切上げ率をとおき、議員一人当たりの人口が最小の都道府県の切上げ率をとおくと、
 
となる。
 これを@に代入すると、
  
を得る。
 また、Aから、当然のことながら、議員一人当たりの人口が大きいほど切上げ率は小さく、当該人口が小さいほど切上げ率は大きい。ちなみに、千葉県の切上げ率は0.0006であり、鳥取県の切上げ率は0.3961である。
 したがって、議員一人当たりの人口が最大の都道府県においては、であることから、は十分に小さい値であるので、
  
であり、
  
となる。
 したがって、一票の較差は、およそ議員一人当たりの人口が最小である都道府県の切上げ率(除数によって大きな変化はない。)に依存することが分かる。これは、一票の較差は、一見議員一人当たりの人口の最大の都道府県と最小の都道府県の比較のように感じられているが、実際には、当該最小の都道府県において、定数がどれだけ超過的に割り振れているかということにほとんど依存していることを意味している。
 ちなみに、上記の式に鳥取県の切上げ率を代入して求めた一票の較差は1.655倍であり、アダムズ方式の下ではこれを小さくすることはほとんどできない。さらに、現実には各都道府県内における区割りが完全に平等にはできないので、最終的な小選挙区間の一票の較差は一層大きな値となる。

 小選挙区の一票の較差については、衆議院議員選挙区画定審議会設置法によって、既に2倍未満にすることが定められています。このことは、今後きちんと遵守していかなければなりません。そのためには、大変評判が悪いのですが、都道府県内の小選挙区の区割りをできるだけ平等にしていかなければなりません。結果的に、区割りが市区町村境をかなり無視することになるのも、やむを得ないことです。御理解をいただきたいと思います。

 しかし、幾ら区割りでがんばっても、一票の較差は最小人口都道府県の当該人口に依存するものであることを、数学的に示させていただきました。平成27年国勢調査の下、アダムズ方式を採用すると一票の較差が1.655倍を下回ることは数学的にあり得ないのです。判例を含め、こうしたことを理解していない主張が多々あるのは、残念なことです。

 なお、かつてアメリカの下院議員の選挙では較差は「1.000001倍未満」であるなどと新聞広告されたことがありますが、これは特定の州内の選挙区間較差のことであり、州間較差は、日本と同じ程度であって、最新のデータでは定数1のモンタナ州で1.88倍となっています。

 このことは、都道府県が選挙区のため選挙区数が少なく、半数ずつ改選のため定数が極端に少ない参議院選挙区では、より深刻です。既に現在の人口状況では一票の較差を3倍未満に抑えることができなくなったことから、4県の2合区が行われたのです。今後この合区の解消が大きな政治課題となってきますが、そのことは別の機会に解説します。

少年法の年齢引下げ問題について
(11月17日)
 
 公職選挙法の選挙権年齢の18歳引下げが昨年の参議院議員通常選挙以降実施され、来年の通常国会には成人年齢を引き下げる民法改正案が提出される見通しとなっています。そうした中で、法制審議会では少年に対する刑事手続を定める少年法の年齢引下げ議論も始まっており、これまでの国会における検討の経緯等について、解説しておきます。

 国民投票法(憲法改正手続法)案の議論の中で、幾つかの課題について与野党の合意があり、その一つが選挙権年齢の引下げでした。憲法改正は極めて重要な事柄であるのでできるだけ多くの国民が国民投票に参加できるようにするため、これまで実際の施行は20歳のまま凍結されていましたが、国民投票権年齢を他の年齢に先行して18歳に引き下げたのです。その際、選挙権年齢についても同様の引下げを行うことについて、おおむねの合意がなされていました。さらに、民法の成人年齢等についても、今後必要な検討を行うことが、同法の附則に規定されました。

 そうしたことが共社を除く憲法改正に係る与野党協議会で確認され、選挙権年齢を18歳に引き下げる公職選挙法の改正案が衆参両院で全会一致で可決成立し、当該改正法の附則で年齢引下げの検討対象に「少年法」を含めることも条文上明記されました。

 私たちは、自民党内の議論において、「選挙権年齢の引下げは先行して行うが、子供に選挙権を与えたわけではない。民法の成人年齢を始めとする年齢規定は、原則18歳に引き下げられるべきである。」と説明してきました。これを踏まえ、民法改正案についてはおおむね準備ができており、飲酒や喫煙などの健康年齢、競馬やパチンコなどのギャンブル年齢を除いて、原則18歳に引き下げることとされています。そこで、残った焦点が少年法の改正となっているところです。少年法の改正は重大な事項であり、改正には法制審議会への諮問が必要だからです。

 自民党は、少年法は、大人と子供を分けて処遇する法律であり、民法の成人年齢の引下げに伴い、当然対象年齢は18歳未満に引き下げらるべきものと考えています。一方で、若年者については引き続いて教育的観点から丁寧な刑事手続や矯正措置が必要ではないかなど、これには様々な議論がありました。

 少年法の世界では、よく「可塑性」という言葉が使われます。これは、粘土のように力を加えれば形を変えることができるという意味です。18歳や19歳の若年者には「可塑性」があり、更生による立ち直りの機会を奪うべきではないという主張がありました。私たちは、ごもっともな意見であると考えました。ただし、その場合、少年法の世界に大人を残すわけにはいかないので、同法とは別に刑事上「若年成年特別措置」を講ずべきではないかと提案したところです。

 すなわち、一定の若年者、私たちは検討結果によっては上限は22歳ぐらいまで拡大してもいいと考えていますが、に対し、少年法と同等又はそれに近い処遇をすることを主張しています。そして、その具体的な内容については、専門家である法務省の見解や法制審議会の検討に委ねようとしているのです。

 少年法の年齢の引下げについて日本弁護士会などから反対意見を頂いていますが、決して議論に交わりのない提案をしているわけではありません。いちいちの反論はここではしませんが、私たちの提案によりむしろ若年者への処遇のより充実した方向への改善が行われることもあるものと考えています。


|上へ|
|トップページへ|