ジビエの産業化
(5月10日)

 「ジビエ」とは狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉を意味するフランス語であり、ジビエを使った料理を意味することもあります。

 我が国では、野生鳥獣による農産物の被害が広がっており、これまで年間約200億円程度の被害が報告されていましたが、最新の統計である平成27年度では176億円の被害と対策の成果も若干見られているところです。被害の約7割がシカ、イノシシ及びサルによるものであり、その防止等のためシカは年間59万頭が、イノシシは年間52万頭が捕獲されています。しかし、ジビエにするための処理施設は、全国に552施設しかなく、かつ、零細な施設が多く、捕獲されたもののうちシカで14パーセント、イノシシで6パーセントしか利活用されていません。

 現在シカやイノシシの捕獲のため原則1頭当たり8,000円の報奨金(国単価)を支払っていますが、これだけの頭数を年間捕獲しているのであれば、ジビエをもっと経済的に活用ができないかという議論が各所から出てきているのは、当然のことです。我が国でも、ぼたん鍋など一部の地域ではジビエをおいしく頂いていますが、全国的にシカやイノシシの料理が普及している状況にはありません。そのためには、まずジビエ料理を家庭料理として普及していく必要があります。

 これが、ジビエの消費拡大の課題です。農林水産省では、関係団体と協力して料理コンテストなどを実施し、そのレシピを公開するなど普及に努めていますが、全国的な普及はこれからの課題です。なにしろ、スーパーに行っても、百貨店に行っても、生鮮食料品売場には普通牛、豚及び鶏の肉しか売っていません。鴨肉さえ、なかなか見つかりません。これが、ジビエの流通の課題です。まずは飲食店等からジビエ料理の浸透を図り、ジビエの消費が拡大すれば、流通も拡大してしていくものと考えられますが、在庫を抱えなければならないスーパー等には、まだ幾つかのリスクがあります。

 一つは、ジビエの値段がまだ高いことです。豚肉であれば、最近値段が上昇してきても、枝肉価格で550円/kg程度なのですが、シカで平均1,600円/kg、イノシシで平均2,300円/kg程度であり、イノシシ肉は和牛並みの価格をしています。イノシシでは、高いものは1万円を超え、高級肉扱いされています。一般の社員食堂などで扱うのは困難なので、シカ肉と豚肉の合挽ミンチ肉を使用することなど工夫する必要があります。普及が進めば、もっと安くなることも考えられるでしょう。

 もう一つは、ジビエに対する一般消費者の信頼確保です。狩猟肉であるがゆえに、仮にスーパーに並ぶ日が来たとしても、なかなか買っていただけないのではないかという心配があります。流通業者の中には、消費者に安心を与える規格認証制度を設けて、製品に全国共通のシールを貼るべきであるという意見が強いのです。ごもっともな意見でありますが、そのためには認証手続に手間を掛け、検査組織を整えなければならないので、肉の価格の上昇にも影響があります。しかし、この点は推進していかなければ、ジビエの普及につながらないでしょう。

 そして、最大の課題が、ジビエの安定的な供給です。現在、捕獲したシカやイノシシは、その多くが利活用されていないため、近くの林野で埋却処分されています。それをジビエにするためには、獣を処理施設に運搬して、解体処理を行わなければなりません。これが、今の基準では1時間以内とされています。捕獲場所が林野であるだけに、なかなか難しい基準であります。そのためには、処理施設を増やすとともに、処理機能を備えた移動式解体処理車の普及が必要です。このほか、わな式の捕獲を拡大し、生きたまま処理施設へ運ぶことなども考えていますが、安全性の面などで課題があります。

 こうした点を踏まえ、ジビエの産業化を推進するためには、供給、流通及消費のそれぞれ面で一つ一つの課題の解決を図っていかなければなりません。全ての分野で需要と供給がマッチし、かつ、それが拡大の方向に向かうことにより、ジビエの産業化が実現することは、言うまでもありません。しかし、それは、ある意味鶏と卵の話に等しいところがあります。誰が最初のリスクをとって、全体の推進エンジンとなるのか、それを見定める必要があります。

 もちろん、この話には、国が主導的な役割を果たさなければなりません。そのことはよく自覚していますが、一方で、マーケットを作るためには経済主体としての民間の皆さんの参入がどうしても不可欠です。ジビエの産業化はなかなかハードルが高い話ではありますが、地域的に見れば需要と供給が成り立っている所もあります。困難な課題を解決するため、挑戦をしていきたいと考えているところです。政府としては、菅官房長官を議長とし、山本農林水産大臣を副議長とする「ジビエ利用拡大に関する関係省庁連絡会議」を設置し、ジビエ利用の一層の拡大について議論を重ねています。

衆議院の選挙区割りの改定
(4月26日)

 4月19日(水)、衆議院議員選挙区画定審議会により区割りの改定が勧告されました。新たに分割されることになった市区町村では不満の声が上がるとともに、大きく区割りが変わることとなった現職の国会議員の中からも驚きの声が上がっています。しかし、「一票の較差」を厳格に考えていくと、こういうことになるのです。その仕組みについて、簡単に説明します。

 衆議院の選挙区は、小選挙区(295人)と比例代表区(180人)に分かれます。小選挙区は1人制であり、比例代表区は11ブロック制です。今回の選挙制度改革は、定数の是正と定数の削減を同時に行うと大混乱が起きるので、まず定数の削減(10人)を優先し、抜本的な定数の是正は先送りされました。その結果、小選挙区で6人、比例代表区で4人の削減を行うこととなりました。都道府県間の定数の是正は先送りされたものの、全体の一票の較差を2倍以内に収めなければならないことは絶対条件であるので、定数が削減された県のみならず、多くの選挙区で区割りが変更されたのです(19都道府県97選挙区)。

 小選挙区の定数の配分は、まず都道府県ごとに定数を割り当てます。基本的には人口による比例配分ですが、比例配分にも複数の方式があるので、今後アダムズ方式によることとされました。この方式の説明は省略しますが、地方にやや有利な方式と考えられています。そして、都道府県内の区割りは、上記の審議会が勧告することとされており、基本的にはこれに従って法律を定めなければなりません。

 まず、定数が各1人削減される6県(青森県、岩手県、三重県、奈良県、熊本県及び鹿児島県)で、27選挙区が21選挙区となり、当然のことながら区割りが大きく変更されました。

 次に、全体の一票の較差を2倍未満に抑えるため、基準選挙区(鳥取県第2区・最少人口県の最少人口選挙区)の人口の2倍を超えるもの10都道府県56選挙区及び基準選挙区の人口を下回るもの4県11選挙区で、区割りが変更されました。くわえて、北海道で、旧支庁との区域の調整を図るため、3選挙区で区割りが変更され、合計13都道府県70選挙区で区割りが変更されました。特に基準選挙区の人口の2倍を超える選挙区の多い東京都では、25選挙区のうち21選挙区で区割りが変更されました。

 一方、区割りの変更のなかった府県は、28府県ありました。

 これに伴い、都道府県間較差は、前回区割り時に1.788倍であったものが(22年国調)、今回の区割りの改定により1.844倍となります(27年国調)。「較差が拡大しているではないか。」という指摘があるでしょうが、上記のように今回は定数削減を優先し、定数是正を先送りしたので、本来定数を増員すべき都府県の定数増を行わなかったことによるものです。また、今回から、次の国勢調査の年における見込み人口でも一票の較差が2倍未満となるよう措置することとされたので、平成32年の見込み人口によっても1.937倍と2倍を下回っています。ちなみに、アメリカの下院議員選挙における州間較差は最大1.88倍であり、日本の都道府県間較差と大きな差はなく、選挙区制度を採ればこれぐらいの較差は生ずるものであることを是非御理解いただきたいと思います。

 小選挙区間の最大較差は、都道府県内の区割りを行政区域や地勢を無視して単純平等に行えば、限りなく都道府県間較差に近づくはずですが、実際にはそうはいかないので、前回の区割り時で1.998倍であったものが、現在2.176倍となっており、2倍を超えて違憲状態が指摘されています。それを今回の区割り案で是正すると、1.956倍になります。平成32年の見込み人口でも、1.999倍と2倍を切るよう設計されています。しかし、将来を見越した改定であることが余り正確には報道されていません。

 なお、今回の区割りで、新たに市町の分割が解消されるものは定数削減県で9市町、新たに市区が分割されるものは大都市を中心に26市区、分割区域が変更されるものが10市区に及びました。また、比例代表区では、4ブロックで各1人削減され、東北13人、北関東19人、近畿28人、九州20人となります。小選挙区との重複立候補制度は、変更ありません。

 次回の平成32年の国勢調査では、アダムズ方式により都道府県に定数が比例配分されます。報道によると、その結果9増9減の実施が見込まれています。東京都が4増、神奈川県が2増、埼玉県、千葉県及び愛知県で各1増が見込まれ、宮城県、福島県、新潟県、滋賀県、和歌山県、広島県、山口県、愛媛県及び長崎県で各1減が見込まれています。これらの都県ではそれ以降区割りの変更が行われ、東京都では今回に引き続いて再度の大きな区割りの変更が行われる可能性があります。また、次回の国勢調査から、大きな影響はありませんが、人口から参政権のない外国人人口を除外して定数配分することとなっています。

 このように、今回及び次回の区割りの改定により、衆議院小選挙区における定数是正の問題は恒久的に解決し、一票の較差2倍未満が制度的に守られることになります。しかし、人口の過疎過密が続くたびに具体の区割りは見直さなければなりません。そのためには、今回の勧告のように小選挙区の区域と市区町村の区域とのそごが相当程度大きく現れてくるのも致し方ありません。本当にそれでいいのか多々御意見があるものと思われますが、一票の較差の是正を第一に考える最高裁判決が続く限り、それに対応していかなければなりません。


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