憲法9条2項問題とは何か
(8月31日)

 9月7日には自民党総裁選挙が公示されますが、大きな論点の一つである憲法改正について、国民の大多数が支持する自衛隊の保持を憲法に規定するに当たって、現行憲法第9条第2項を削除すべきか否かが、争点となっています。同項は戦力の不保持と交戦権の否認を定めており、この規定が憲法にあることの意味について、分かりやすく解説します。

 憲法第9条は、第1項と第2項から成っています。1項は、1929年に発効したパリ不戦条約第1条とほぼ同じ内容であり、侵略戦争を禁止した規定であると解されています。2項は、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」と規定されており、繰り返しになりますが、戦力の不保持と交戦権の否認を定めたものです。「前項の目的を達するため」とあるため、2項は自衛権を否定していないという解釈もありますが、政府は、この解釈を採っていません。

 憲法制定議会において、吉田茂総理は、「これは直接には自衛権を否定していないが、一切の軍備と交戦権を認めないもので、自衛権の発動としての戦争、交戦権を放棄したものである。」であると答弁し、自衛権の行使を完全に否定しました。しかし、朝鮮戦争が勃発し、警察予備隊、保安隊を経て、自衛隊の設置が必要になると、政府は、憲法は必要最小限度の自衛権の行使までも否定したものではなく、そのための自衛隊は「実力」であって、「戦力」ではないという解釈を採るようになったのです。

 こうした経緯を踏まえ、憲法学者の大半は自衛隊を違憲と考え、教科書の一部においても「自衛隊の保持が違憲であるとの意見もある。」とする記述が行われています。確かに自衛隊を「実力」とする政府解釈には苦しいところがありますが、一方で、9条全体を通じた解釈として、「必要最小限度の自衛権しか行使できない。」という政府解釈を我が国は大切にしてきたのです。「必要最小限度」とは何かというと、これも国際情勢によって変わり得るものですが、例えば軍備について、国会では、大陸間弾道弾、長距離攻撃爆撃機、空母などの保持について可能かどうかという議論が行われてきました。

 こうした中で、自民党は、野党時代に、「憲法改正草案」を発表し、将来「国防軍」を保持することを表明しました。これに伴い、草案では、当然、戦力の不保持を規定した2項は、削除しました。世界中を見ても、憲法で自国の自衛権を制限した国はなく、都市国家のような小さな国を除けば、軍隊を保持していない国はありません。自民党は、「普通の国」となることを目指したのです。しかし、これは飽くまでも将来の目標を掲げたものであり、今すぐ軍隊を保持することについて、国民の大多数に支持していただけるものとは考えていません。

 そこで、安倍総裁の提案を受け、細田憲法改正推進本部長の下で、第9条の2を置くことにより、まず現行の自衛隊をそのまま憲法解釈を変えることなく憲法上位置付けることを「憲法改正素案」の中で決定しました。そのことにより、不毛な自衛隊違憲論争に終止符を打つことにしたのです。議論の過程で、「2項を残しながら自衛隊の保持を位置付けることは、憲法の中の矛盾を残すことになる。」との意見が表明されました。もっともな部分もありますが、もし2項を削除してしまうと、「必要最小限度の自衛権」という政府解釈の根拠が失われます。そうなると、いかに憲法上「自衛隊」と称したとしても、それは正に軍隊を保持することになるのです。このことに、現段階で、国民や他党の理解が得られるとは、とても考えられません。

 2項を削除する意見を述べている人たちから、新たな自衛隊の規定の中で別途「必要最小限度の自衛権」を規定するという考えは聞かれません。あるいはそうした考え方もあるかもしれませんが、現状では、現行の9条には一切手を加えずにそのままにしておいて現在の憲法解釈を大切にすべきであると考えます。

霞が関の働き方改革
(6月26日)

 河野外務大臣が、参議院外交防衛委員会で、国家公務員の残業時間が長いことについて「この状況が続けば、能力の高い人材が集まるか不安だ。霞が関は崖っ縁に来ている。」と述べました。私も、全く同感です。その残業体制の中心的問題は、国会対応にあることは、言うまでもありません。しかし、その実態は、多くの国民に余り知られていません。

 このことは、私が若い役人であった頃から基本的に変わっていません。庶務担当の上司から「できるだけ電車の動いているうちに帰れ。」と指示を受けながら、タクシー券を使って帰宅する日も多かったので、毎日5,6時間は残業していたのでしょう。土曜日も夕刻までは残業しており、月にすれば、優に100時間を超えていたはずです。そこまでひどくなくても、今も、霞が関の残業体制は、余り変わらない気がします。なぜ直らないのでしょうか。

 何が問題なのかというと、国会開会中には、衆参両院でほぼ毎日のように多くの委員会が開かれています。委員会では、たくさんの質問が出され、その答弁資料を役所が用意しなければなりません。私の所属している農林水産省でも、半日の委員会があれば、80問から100問ぐらいの答弁を用意します。それだけでも大変な仕事なのですが、前日の質問者からの質問通告が遅く、早い所でも夕刻、普通で午後7時から8時頃、遅い所では深夜0時頃になることもあります。

 まず、国会日程が決まり、翌日委員会が開会されることになると、各会派のバッター(質問者)が決まるのを待ちます。質問者が分かると、課長補佐クラスの職員が議員会館に質問取りに出掛けます。これは議員の方から見ると「質問通告」と呼ばれており、質問者で方法は異なりますが、口述の場合も結構あると聞いています。私が質問していた時は、自分で問の形で質問票を作り、レクチャーなしで秘書から各省庁に渡していました。質問取りが終わると、それに出掛けた課長補佐が役所で「問起こし」をし、質問の形に整理します。それを見て国会を担当している文書課から各局に答弁書きの依頼をします。

 それから、各局の課長補佐等が「答弁書き」をします。その後、関係局や他省庁への合議(あいぎ)をしつつ、担当局長までの了解を取ります。そこまでいくと、答弁資料の「セット」作業が始まり、答弁とともに関係資料が膨大な枚数コピーされ、質問者ごとの「答弁資料」が出来上がります。翌早朝に担当局長などによる大臣等に対する「答弁レク」が行われ、それが終わり次第大臣や他の答弁者が国会の委員会室に赴くことになります。質問通告が前日の深夜であったならば、いかに大変なことになるのか御理解いただけると思います。私が、官邸で内閣参事官をしていた頃、早朝官房長官に答弁レクする時、答弁資料がコピーの余熱でまだ温かかったことは、何度もありました。

 実は、与野党の申入れで、質問通告は前々日の正午までにすることになっているのです。それでは、質問者がさぼっていて悪いのかということになりますが、そうとも言えないのです。なぜならば、委員会の開会が決まるのは、前日のことが多いからです。国会では、「日程協議」が各委員会の与野党筆頭理事同士で行われ、これが与野党の駆け引きの中心になっています。委員会の定例日(曜日)というのはあらかじめ決められているのですが、その日に何を議題として何時間ぐらい審査をするかというのは、一回一回与野党が合意しなければなりません。その合意は前日になることが多く、その後に質問者が決まるので、与野党ともその前に質問通告をするといっても事実上無理なことが多いのです。

 地方議会では、日程は招集前におおむね合意が成されており、委員会の最終日に委員会採決、会期の最後に本会議採決がセットされ、日程の駆け引きは余り行われず、いつどの議案が審議されるかは、大方あらかじめ定まっているのです。これに対し、国会では、定例日に委員会を開会するのにも、毎回与野党合意が必要とされています。したがって、与野党申合せのように前々日の正午までに質問通告できるようにするためには、それ以前に委員会の開会が決定できるようにシステムを変えなければなりません。しかし、「日程協議」は野党の重要な対抗手段であり、それを変更するには、それに変わり得るいい案がなければなりません。

 今架空の案を言っても余り仕方がないのですが、私の案を一応示しておきます。
@ 議案は、つるし(議案を委員会に付託させないこと。)を止め、適法に提出された議案は政府提出のものと議員提案のものとにかかわらず、一定のルールの下に議院運営委員会で本会議で趣旨説明するもの(登壇もの)とそうでないものとを分類し、後者は直ちに常任委員会に付託する。
A 常任委員会の定例日及び予備日は、それぞれ衆参異なる各一曜日とし、予算案の成立後は、定例日には必ず委員会を開会するものとする。これにより、衆参で大臣を取り合うということはなくなる。
B 定例日においては、必要に応じて午前午後委員会を開くこととし、一日のうち、例えば午前を法案審査に充て、午後を一般質疑に充てる。
C 大臣が他の公務のため出席できない場合は、与野党合意の上副大臣以下で答弁対応することを認める。
D 定例日の委員会終了後、直ちに翌週の定例日の議案等を理事会で確認し、各会派は速やかに次回質問者を決定する。
 もちろん与野党で開催必要なしと合意をしたときは委員会を開く必要はありませんが、そうでない限り、会期末までに必ず毎週1回は委員会を開会することを野党に約束する代わりに、日程闘争はやめようということです。衆参各週1日でも、午前午後丸一日委員会を開くことができれば、今の委員会審議のペースと余り変わりません。議案が滞留しているときや参考人質疑などが必要なときは、予備日を使ってもいいでしょう。議案の審議終了後は、一般質疑の間隔を少し長くしてもいいかもしれません。

 こうすることにより、次の委員会までは原則1週間が確保されるので、質問者も準備の余裕ができ、前々日正午までの質問通告も可能になるのではないかと考えます。様々な論点があってなかなか簡単な改革ではありませんが、霞が関の働き方改革のため、国会も大胆な発想転換が求められています。



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